学校長の一言

2010年1月の記事一覧

工程を人に合わせる会社

保護者の方から、「障害のある子どもを持つ親として、慰められ力づけられるとても素敵な会社があります。」と紹介された川崎市にあるダイレクトチョークで有名な「日本理化学工業株式会社」についてホームページや本を通して調べてみました。この会社の障害者雇用率は社員の7割を超えているのです。1.8%の法定雇用率を達成している事業所は5割にも満たない現状では、驚くべきことです。それも肢体不自由や聴覚障害ではなく知的障害者がほとんどなのです。さらに、毎年採用を継続しながら優良経営を続けているのです。
 ここの障害者雇用は、50年前に現場実習にきた知的障害のある生徒2名を、現場実習で一緒に働いた社員が「私たちみんなでカバーします。」と社長にお願いして雇用したことに始まります。最初は苦労の連続だったそうです。会社の工程に慣れてもらうことに力を注いだのですがうまくいかず、社長が先頭に立って一人一人の障害や状態に合わせて機械を変え、道具を変え、部品を変えていったそうです。チョークの色とラインに流す材料や容器もその色に合わせる、数字が読めない人には必要量と同じおもりをつくる、時計が読めない人には砂時計を利用するなど、一人一人とつきあいながら、何ができて、何ができないかということを少しずつ理解していき、人に合わせて工程を組み立てていくことにしたのです。そうすると、一人一人の能力が最大限に発揮できるようになり、健常者に劣らない仕事ができるようになったそうです。
 特別支援教育を推進していく上にことさら強調する内容ではありませんが、「一人一人のニーズに応じた教育」というのも、この日本理化学工業を行われている取り組みと同じだと思います。工程に人を合わせるのではなく、「人に工程を合わせる」視点こそが大切だと思わされます。

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可能性を信じること

先に紹介した福井達雨さんの本の中から、強く心を揺さぶられた事例を続いて紹介します。「僕アホやない人間だ」という本の中に書かれてあった内容ですが、障害児教育に携わる者として、ここに示された「可能性を信じる精神」を忘れないようにしたいと思いました。
 父親の海外出張のため、便器で排泄をしたことのない重度の知的障害のある近子さんを施設に預かって4ヶ月。保母たちの経験に裏づけされた方策をしたにもかかわらず、朝の4時ころになると布団の中にウンコをしてしまい、失敗につぐ失敗でもうだめだと福井園長に訴えにきました。「十分やった。もういいよ。」と園長から言ってほしかったのだと思います。
 しかし、園長は、本当にだめかを確認し、ここで支援を放棄することは大切な精神を失うことになりはしまいかと危惧して認めませんでした。「教育というものは、どんな時でも可能性を信ずることや。もう駄目やと思って教育を捨ててしまったら、この子ども達には人間回復なんて生まれない。何もできない子どもであるからこそ、可能性を信じてやるのだ」と。
 その結果、職員は奮起して、もう一度近子のおしりとニラメッコをすることになりました。その後6ケ月経ったある早朝、園長のところに職員が飛んできて、「先生大変です。大変です。近子さんがトイレでウンコした!」と泣きながら報告したのでした。

 実に入所してから10ヶ月経ってやっとトイレで排便ができたのです。その場に立ち会った職員は、こう言っています。
 「わたし、近子ちゃんのオシリをただ祈る思いでにらみつけていたんや。ちょうど30分ほどした時、近子ちゃんのオシリから香ばしいウンコがポツンと出てきた時、ただ感激でいっぱいやった。これほどウンコが美しいものだとは今まで思ったことがなかったし、ウンコのにおいが香ばしいものだと思ったことがなかったわ。宝物を神様から授かったような気持ちやった。自分の仕事が本当に素晴らしいとつくづく思ったわ。」
 私たち教員が簡単にあきらめていないか、また努力も中途半端ではないかと反省させられます。「可能性を信じる心」をしっかりもって、子どもたちとしっかりと向き合いたいと思います

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