学校長の一言

可能性を信じること

先に紹介した福井達雨さんの本の中から、強く心を揺さぶられた事例を続いて紹介します。「僕アホやない人間だ」という本の中に書かれてあった内容ですが、障害児教育に携わる者として、ここに示された「可能性を信じる精神」を忘れないようにしたいと思いました。
 父親の海外出張のため、便器で排泄をしたことのない重度の知的障害のある近子さんを施設に預かって4ヶ月。保母たちの経験に裏づけされた方策をしたにもかかわらず、朝の4時ころになると布団の中にウンコをしてしまい、失敗につぐ失敗でもうだめだと福井園長に訴えにきました。「十分やった。もういいよ。」と園長から言ってほしかったのだと思います。
 しかし、園長は、本当にだめかを確認し、ここで支援を放棄することは大切な精神を失うことになりはしまいかと危惧して認めませんでした。「教育というものは、どんな時でも可能性を信ずることや。もう駄目やと思って教育を捨ててしまったら、この子ども達には人間回復なんて生まれない。何もできない子どもであるからこそ、可能性を信じてやるのだ」と。
 その結果、職員は奮起して、もう一度近子のおしりとニラメッコをすることになりました。その後6ケ月経ったある早朝、園長のところに職員が飛んできて、「先生大変です。大変です。近子さんがトイレでウンコした!」と泣きながら報告したのでした。

 実に入所してから10ヶ月経ってやっとトイレで排便ができたのです。その場に立ち会った職員は、こう言っています。
 「わたし、近子ちゃんのオシリをただ祈る思いでにらみつけていたんや。ちょうど30分ほどした時、近子ちゃんのオシリから香ばしいウンコがポツンと出てきた時、ただ感激でいっぱいやった。これほどウンコが美しいものだとは今まで思ったことがなかったし、ウンコのにおいが香ばしいものだと思ったことがなかったわ。宝物を神様から授かったような気持ちやった。自分の仕事が本当に素晴らしいとつくづく思ったわ。」
 私たち教員が簡単にあきらめていないか、また努力も中途半端ではないかと反省させられます。「可能性を信じる心」をしっかりもって、子どもたちとしっかりと向き合いたいと思います